2011年、2012年のプロ野球は、異常なほどの投高打低のシーズンとして知られています。
2011年の両リーグを合わせた本塁打数は、2010年と比較して1605本から939本に激減しました。
この現象は統一球と呼ばれるボールが原因であり、球界を大きく混乱させました。
当記事では、この「飛ばないボール」統一球問題について、解説します。
筆者のプロフィール
野球観戦歴20年超の野球オタクで、元球場職員の経歴を持ちます。
愛読書は公認野球規則で、野球のルール解説も得意としています。
統一球とは?
統一球とは、2011年にプロ野球12球団に導入された、ミズノ製のボールです。
そもそも2010年までは、球団によって使用しているボールが異なっていました。
ボールによって反発係数が異なるため、本塁打の出やすさもボールによって左右されるわけです。
2003年の横浜ベイスターズは反発係数が高いボールに切り替え、その年のチーム本塁打数は95本増加したという記録も残っています。(もちろん、本塁打増加の理由がボールだけとは言えませんが)
このように、球団によってバラバラだったボールを統一しようとして導入されたのが統一球です。
WBC等、国際試合で使用されるボールに近い、ミズノ社製の低反発のボールが採用されました。
この低反発ボール、「飛ばないボール」こそがプロ野球を大きく混乱させたのです。
2013年統一球をめぐる不祥事
この「飛ばないボール」統一球の影響は顕著でした。
本塁打数は激減、完封試合は急増、2011年~2012年シーズンは明らかに投高打低の減少が続きます。
統一球の影響であることは明らかで、統一球導入後、多くの打者が成績を落とす結果となりました。
また、2012年のメジャーリーグとの親善試合により、統一球はメジャーリーグのボール以上に飛ばないボールであることが判明しました。
さらにはWBCでの使用球とも規格が異なることが判明し、選手会から統一球を検証する声が上がったのです。
ここまでであれば、統一球導入は失敗だった、という結論で終わりますが、この統一球問題が「問題」とされているのは、この後のNPBの対応についてです。
2013年シーズン開幕後、前年までの投高打低の状況が一変、明らかに「ボールが飛ぶ」状態になりました。
NPBは選手会に対して、「ボールの仕様は変えていない」と説明していましたが、実際は異なりました。
2013年6月、NPBは会見を開き、統一球の反発係数が基準値を下回っていたことを公表したのです。また、これを受けて統一球の仕様を2013年から変更したことも認めています。
NPBは、選手会へは「ボールの仕様を変えていない」と虚偽の説明を行っており、さらにはボールメーカーのミズノ社へもボール使用の変更を隠ぺいするように働きかけていました。
統一球は多くの選手のプレースタイルに影響を与えた問題であり、それを隠蔽しようとしたNPBには批判が殺到。
最終的には加藤コミッショナー(当時)が辞任する事態にまで発展しました。
統一球が本塁打数に与えた影響
統一球の影響として、安打の減少(本来ヒット性の打球がフライ、ライナーになる)や、本塁打の減少が挙げられます。
特に、本塁打の減少は数字上にも顕著に表れていますので、比較してみましょう。
年間本塁打数の推移
統一球導入前後の、本塁打数は以下のとおりです。
年度 | 12球団年間本塁打数 | 前年比 | |
2010年 | 1605 | – | |
2011年 | 939 | -666 | 41%減 |
2012年 | 881 | -58 | 6%減 |
2013年 | 1311 | +430 | 49%増 |
2011年に統一球を導入したことで激減していますね。
また、2013年には統一球の仕様が調整されたことで、本塁打数は急増しています。
これを隠蔽しようとしていたというのは、今振り返ると滑稽な話ですね。
本塁打ランキングの推移
2011年、2012年のシーズン本塁打数ランキングを見てみましょう。
2011年にはなぜか西武・中村だけが打ちまくる不思議な現象も生まれ、当時は話題を呼びましたが、2年間で30本塁打達成者が中村とバレンティンだけという、明らかに本塁打数が減っているのが分かります。
2011年セ・リーグ
順位 | 選手名 | 所属 | 本塁打数 |
1 | バレンティン | (ヤ) | 31 |
2 | ラミレス | (巨) | 23 |
2 | 畠山 和洋 | (ヤ) | 23 |
4 | 阿部 慎之助 | (巨) | 20 |
4 | スレッジ | (横) | 20 |
4 | 村田 修一 | (横) | 20 |
7 | 長野 久義 | (巨) | 17 |
7 | 栗原 健太 | (広) | 17 |
7 | 新井 貴浩 | (神) | 17 |
10 | ブラゼル | (神) | 16 |
10 | 坂本 勇人 | (巨) | 16 |
10 | ブランコ | (中) | 16 |
2011年パ・リーグ
順位 | 選手名 | 所属 | 本塁打数 |
1 | 中村 剛也 | (西) | 48 |
2 | 松田 宣浩 | (ソ) | 25 |
3 | バルディリス | (オ) | 18 |
3 | 中田 翔 | (日) | 18 |
5 | フェルナンデス | (西) | 17 |
6 | 中島 裕之 | (西) | 16 |
6 | T-岡田 | (オ) | 16 |
8 | 李 承ヨプ | (オ) | 15 |
9 | 内川 聖一 | (ソ) | 12 |
9 | 松中 信彦 | (ソ) | 12 |
9 | 稲葉 篤紀 | (日) | 12 |
9 | ホフパワー | (日) | 12 |
2012年セ・リーグ
順位 | 選手名 | 所属 | 本塁打数 |
1 | バレンティン | (ヤ) | 31 |
2 | 阿部 慎之助 | (巨) | 27 |
3 | ブランコ | (中) | 24 |
4 | ミレッジ | (ヤ) | 21 |
5 | ラミレス | (デ) | 19 |
6 | 坂本 勇人 | (巨) | 14 |
6 | 長野 久義 | (巨) | 14 |
6 | 堂林 翔太 | (広) | 14 |
9 | 畠山 和洋 | (ヤ) | 13 |
10 | 村田 修一 | (巨) | 12 |
10 | ブラゼル | (神) | 12 |
2012年パ・リーグ
順位 | 選手名 | 所属 | 本塁打数 |
1 | 中村 剛也 | (西) | 27 |
2 | 李 大浩 | (オ) | 24 |
2 | 中田 翔 | (日) | 24 |
4 | ペーニャ | (ソ) | 21 |
5 | ホフパワー | (日) | 14 |
6 | 中島 裕之 | (西) | 13 |
7 | 井口 資仁 | (ロ) | 11 |
8 | 稲葉 篤紀 | (日) | 10 |
8 | T-岡田 | (オ) | 10 |
8 | バルディリス | (オ) | 10 |