2022年12月、現役ドラフトが実施されることが決定しました。
いわゆる「飼い殺し」状態の選手を救済する仕組みですが、どのような仕組みなのか、ピンときていない方も多いのではないでしょうか。
当記事では、この現役ドラフトについて分かりやすく解説します。
後半では、日本版現役ドラフトの参考になっている、MLB版現役ドラフト(ルール5ドラフト)についても紹介しています。
参考になれば幸いです。
筆者のプロフィール
野球観戦歴20年超の野球オタクで、元球場職員の経歴を持ちます。
愛読書は公認野球規則で、野球のルール解説も得意としています。
日本プロ野球の現役ドラフトのルール
現役ドラフトは各球団でくすぶっている選手を救済するための仕組みです。
各球団、必ず1選手の指名・流出が発生するルールになっています。
「強制トレード」とも言い換えられるかもしれません
ここでは、以下の順番で現役ドラフトのルールを解説します。
- 現役ドラフトの対象選手
- 現役ドラフトの指名方法
以下、順番にご覧ください。
現役ドラフトの対象選手
日本プロ野球に導入される現役ドラフトでは、各球団が2名以上の選手リストを作成します。
この対象リストにピックアップされた選手が、現役ドラフトの対象となるのです。
ただし、以下の選手はリストに含めることができません。
- 外国人選手
- 複数年契約選手
- 年俸5000万円以上の選手
※1名に限り5000万円以上1億円未満の選手を含めても良い - 過去にFA権を行使したことがある選手
- FA資格選手
- 育成選手
- 前年の年度連盟選手権試合終了の翌日以降において、選手契約の譲渡により獲得した選手
(要するに前年のオフ~今シーズンの間にトレード等で移籍した選手です) - シーズン終了後に育成から支配下に切り替えられた選手
また、現役ドラフトの対象選手は非公開です。
現役ドラフトの対象となる=トレード要員の候補とも言えますので、選手の心情に配慮した措置ですね。
現役ドラフトの指名方法
現役ドラフトでは、リストの中から各球団は必ず1名以上獲得する必要があります。
だからこそ「強制トレード」とも言えるわけです。
このルールにおいて、各球団にとって最重要なのが指名順です。
「指名なし」は許されないため、出来るだけ早く良い選手を獲得したいですよね。
指名順についてはよく考えられており、以下のルールで行われる予定です。
- 12球団の対象選手のリストの中から、各球団が獲得したい選手に入札する
- 入札球団数の最も多かった球団が、最初の指名権を得る
- 以降、「獲られた」球団が順番に指名する
※すでに指名が終わった球団の選手が指名された場合は、再度①から実施
少々分かりにくいため、具体例で解説しましょう。
- 12球団の対象選手のリストの中から、各球団が獲得したい選手に入札する
- ソフトバンクのA選手の人気が高く、7球団の入札を獲得
→ソフトバンクが最初の指名権を獲得する - ソフトバンクがオリックスのB選手を獲得する
→「獲られた」オリックスが次の指名権を獲得する - オリックスがヤクルトのC選手を獲得する
→「獲られた」ヤクルトが次の指名権を獲得する - ヤクルトがソフトバンクのA選手を獲得する
→ソフトバンクは既に指名済のため、再度残りの球団のリストの中から入札を実施(①に戻る)
要するに、人気の高い選手を対象のリストに含めた方が、より早く指名できる仕組みなのです。
【戦略が大事】日本版現役ドラフトのポイント
日本版現役ドラフトの最大のポイントは、やはり以下の2点です。
- 対象選手は各球団が選ぶ
- 指名順は人気の高い選手を出した球団から
必ず1選手は獲得・流出することになるため、出来るだけ早く指名したいところです。
指名順を早めるためには、「良い選手」を差し出す必要があります
有望な選手が流出するのはチームにとってはもちろん痛手です。
一方で、出し惜しみをすると指名順が下がり、チーム方針に合った選手が獲得できないリスクもあります。(渋々獲得されたとしても、その選手が出場機会を得られる可能性は低いため、選手のためにもなりません)
当たり前の話ですが、現役ドラフトは各球団がどのような選手を差し出すのかが、制度がうまく回るためにも大きなカギを握るのです。
【全く違う】MLB版現役ドラフトを解説
日本プロ野球の現役ドラフトは、MLB版現役ドラフトを大いに参考にしています。
MLB版の現役ドラフトは「ルール5ドラフト」と呼ばれ、長い間メジャーリーグに定着しました。
いわゆる「飼い殺し」状態を防ぐ仕組みとして注目されており、出場機会に恵まれない選手の移籍活発化に貢献しています。
参考にはしているものの、日本とMLBでは選手の数もリーグの規模も異なるため、その内容は全く別物です
以下では、参考としてメジャーリーグのルール5ドラフトについて解説します。
ルール5ドラフトのルール
メジャーリーグベースボール規約第5条に定められているため、ルール5ドラフトと呼ばれています。
- 毎年12月に実施される
- 指名したチームは元チームに約1,000万円を支払う
- 指名したチームは、指名した選手を翌シーズン全期間、25人枠に登録する必要がある
- 25人枠から外す場合、指名した選手を元チームに変換する必要がある
※25人枠:メジャーリーグ公式戦に出場可能な選手(日本でいう一軍)
- メジャーの40人枠に登録されていない選手(=マイナー契約選手)のみ指名が可能
- 18歳以下で入団した選手で、在籍年数5年未満の選手は指名不可
- 19歳以下で入団した選手で、在籍年数4年未満の選手は指名不可
※40人枠:メジャー契約選手(日本でいう支配下契約)で、公式戦出場可能な25人枠と順次入れ替わる(40人枠には25人枠の選手も含まれる)
メジャーリーグにはマイナーリーグを含めると非常に多くの選手が所属しています。
一方で、メジャー契約を得られるのは各チーム40名と限られています。
選手層が厚いチームでは、有望な選手であっても40名枠に入れないケースがあるのです。
このように、チーム事情でメジャーリーグに昇格出来ない選手を救済する仕組みがルール5ドラフトです。
安易に他球団の選手を引き抜くことを防ぐため、指名した選手は翌シーズンは25人枠に入れる必要があるなど、良く考えられた仕組みと言えますね。
ルール5ドラフトの成果
長年実施されているルール5ドラフトですが、実際に成果はあるのでしょうか。
ルール5ドラフトは数々の名選手を発掘しており、素晴らしい制度といえます。
以下、ルール5ドラフトで花開いたスーパースターの一例です。
- ヨハン・サンタナ
→サイ・ヤング賞受賞投手
- ダン・アグラ
→シルバースラッガー賞受賞 - ジョシュ・ハミルトン
→MVP選手 - ロベルト・クレメンテ
→野球殿堂入り
これほどの選手が、かつてはマイナーリーグでくすぶっていた時期があるのです。
その他にも、ルール5ドラフトはオールスター級の選手を多数輩出しています。
また、日本プロ野球に助っ人外国人としてやってきた選手の中にも、ルール5ドラフト経験者は存在します。
- DJ・ホールトン
- トニ・ブランコ
- エクトル・ルナ
- DJ・カラスコ
- ジャバリ・ブラッシュ
日本で実績を残した外国人にはルール5ドラフト経験者がいるのですね。
日本とMLBで現役ドラフトの大きな違い
日本プロ野球の現役ドラフトはMLBのルール5ドラフトを参考にしているものの、その内容は異なります。
その中でも最大の違いは、以下の2点ではないでしょうか。
- 日本版現役ドラフトでは、各球団1選手の獲得が必須
- 日本版現役ドラフトでは、指名対象となる選手は各球団が事前に選出する
MLBとはリーグの規模が異なるため、日本プロ野球が知恵を絞って検討した策と言えます。
MLBはマイナーまで含めると非常に規模が大きく、実力があるのにマイナーで埋もれている選手も数多く存在します。
ルール5ドラフトでは、所属元の球団の意向にかかわらず、こういった選手を指名できるのです。
もちろん、ほしい選手がマイナーにいなければ獲得を見送ることもできます。
ただ、リーグの規模が違う日本にそのまま導入しても、上手くは回らないでしょう
そもそも日本にはマイナーに相当する下部組織はありません。
二軍は存在しますが、二軍もあくまでも支配下契約選手です。
育成契約はほとんど採用していない球団もあり、規模も小さいため育成選手だけを対象にするのは現実的ではありません。
日本版現役ドラフトは、日本のリーグの規模に見合った現実的な案と言えそうですね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。