2025年2月、オリックス山岡のオンラインカジノ利用が発覚し、NPBが利用者に名乗り出るよう調査を開始しました。
こういった状態を受けて、選手の失格処分を心配している方もいるのではないでしょうか。
誤った認識は混乱を招きますので、当記事で野球協約や失格処分について正しく理解していただければ幸いです。
この記事はあくまでも「野球協約」や「失格処分」について正しい知識を周知することを目的としています。
オンラインカジノ利用者の処分について予測する趣旨ではありませんのでご理解ください。
野球観戦歴20年超の野球オタクで、元球場職員の経歴を持ちます。
愛読書は公認野球規則で、野球のルール解説も得意としています。
「野球協約」とは
野球協約の正式名称は「日本プロフェッショナル野球協約」です。
日本プロ野球における契約手続き等について定めています。
- 第1章 総則
- 第2章 コミッショナー
- 第3章 実行委員会
- 第4章 オーナー会議
- 第5章 コミッショナー事務局
- 第6章 参加資格
- 第7章 地域権
- 第8章 選手契約
- 第9章 保留選手
- 第10章 復帰手続き
- 第11章 選手数の制限
- 第12章 参稼報酬の限界
- 第13章 選手契約の譲渡
- 第14章 選抜会議
- 第15章 新人選手の採用
- 第16章 審判員と記録員
- 第17章 試合
- 第18章 有害行為
- 第19章 利害関係の禁止
- 第20章 提訴
- 第21章 註補
- 第22章 フリーエージェント
- 第23章 構造改革の特例
- 第24章 日本シリーズ出場球団決定試合
オフシーズンのたびにニュースになる減額制限についても、この野球協約で規定されているものです。
野球協約については最新の内容を日本プロ野球選手会のサイトで閲覧可能です
→日本プロ野球選手会オフィシャルサイト
「失格処分」とは
野球協約において、「失格処分」は主に「第18章 有害行為」の中で規定されています。
既定の該当箇所を読む(野球協約より引用)
第177条(不正行為)
(1)選手、監督、コーチ、又は球団、この組織の役職員その他この組織に属する個人が、 次の不正行為をした場合、コミッショナーは、該当する者を永久失格処分とし、以 後、この組織内のいかなる職務につくことも禁止される。
(1)所属球団のチームの試合において、故意に敗れ、又は敗れることを試み、あるい は勝つための最善の努力を怠る等の敗退行為をすること。
(2)前号の敗退行為を他の者と通謀すること。
(3)試合に勝つために果たした役割、又は果たしたと見做される役割に対する報酬と して、他の球団の選手、監督、コーチに金品等を与えること、及び金品等を与え ることを申し込むこと。
(4)試合に勝つための役割を果たした者又は果たしたと見做される者が、その役割に 対する報酬として金品等を強要し、あるいはこれを受け取ること。
(5)作為的に試合の勝敗を左右する行動をした審判員、又は行動をしたと見做される 審判員に対し、その報酬として金品等を与えること、又はこのような申し入れを すること。
(6)所属球団が直接関与する試合について賭をすること。
(2)前項の規定により永久失格処分を受けた者であっても処分後15年を経過した者でそ の間善行を保持し、改悛の情顕著な者については、本人の申し出により、コミッショ ナーにおいて将来に向かってその処分を解くことができる。
第180条(賭博行為の禁止及び暴力団員等との交際禁止)
(1)選手、監督、コーチ、又は球団、この組織の役職員その他この組織に属する個人が、 次の行為をした場合、コミッショナーは、該当する者を1年以上5年未満の期間の範 囲内で期限を定めた失格処分、又は無期限の失格処分とする。
(1)野球賭博常習者と交際し、又は行動を共にし、これらの者との間で、金品の授 受、饗応、その他いっさいの利益を収受し若しくは供与し、要求し、申込み又は 約束すること。
(2)所属球団が直接関与しない試合、又は出場しない試合について賭けをすること。
(3)暴力団、あるいは暴力団と関係が認められる団体の構成員又は関係者、その他の 反社会的勢力(以下「暴力団員等」という。)と交際し、又は行動を共にし、こ れらの者との間で、金品の授受、饗応、その他いっさいの利益を収受又は供与 し、要求又は申込み、約束すること。
(2)前項の規定により、無期限の失格処分を受けた者であっても処分後5年を経過した者 でその間において善行を保持し、改悛の情顕著な者については、本人の申し出によ り、コミッショナーにおいて将来に向かってその処分を解くことができる。
(3)2016年12月31日までに、無期の失格処分を受けた者に係る、期限を定める手 続及び復帰手続は、同処分時の本協約の関係条項による。
野球協約においては、特に「八百長」と「野球賭博」に厳しい処分が規定されています。
この規定をざっくりまとめると以下のとおりです。
- 八百長や所属球団が直接関与する試合への賭博行為
→永久失格処分(処分後15年を経過した場合、復帰が認められる可能性あり) - 所属球団が直接関与しない、又は出場しない試合への賭博行為
→1年以上5年未満の期間の範 囲内で期限を定めた失格処分、又は無期限の失格処分 - 野球賭博常習者や暴力団員との交際や利益の供与
→1年以上5年未満の期間の範 囲内で期限を定めた失格処分、又は無期限の失格処分
※その他、野球協約に違反した場合は失格処分、職務停止、野球活動停止、制裁金又は戒告処分とすることが出来る旨も規定されています(野球協約第9条)
かつて黒い霧事件で揺れたプロ野球ですので、八百長には厳格に取り組んでいます。
失格処分を受けた場合は当然公式戦には出場できません。
球団との契約は解除、球団施設も利用できない状態となるケースが一般的です。
1969年~71年にかけて相次いで発覚した、プロ野球の関係者が金銭の授受を伴う八百長に関与したとされる一連の疑惑および事件のこと
近年の失格処分事例
ここでは近年の事例について解説します。
記憶に新しいのは2015年に発覚した巨人の野球賭博問題ではないでしょうか。
巨人の野球賭博問題
2015年に発覚した巨人の野球賭博問題では、3選手(選手A,B,C)が無期の失格処分となっています。
さらには2016年にも選手Dが関与していたとして、選手Dも1年間の失格処分が科されました。
選手 | NPBの処分 | 巨人からの処分 |
---|---|---|
A | 無期の失格処分 | 契約の解除 |
B | 無期の失格処分 | 契約の解除 |
C | 無期の失格処分 | 契約の解除 |
D | 1年間の失格処分 | 契約の解除 (1年後に育成再契約) |
この事例では八百長行為は認められなかったものの、野球協約第180条(野球賭博禁止規定)に違反したものとして重い処分が下されました。
選手Dについても同様に野球協約180条に違反したものですが、その金額や常習性を考慮され、1年の期限付き失格処分となりました。その後育成契約で選手として復帰しています。
なお、当時の巨人では球団内で賭け事が日常的に横行していた事実も発表されました。
厳密には賭博罪に該当しますが、球団は関わった選手の名前は発表せずに厳重注意処分としています。(警察の捜査にはもちろん協力していた模様)
逮捕に伴う契約解除は失格処分ではない
これまで、現役プロ野球選手が逮捕される事例は何度かありました。
強制わいせつや窃盗事件等が発覚し、逮捕、契約解除となったケースはいくつかあるのです。
ただしこれらのケースは、野球協約の定める「八百長」や「野球協約」、「暴力団員との交際」には該当しませんので、必ずしもNPBから失格処分を受けているわけではありません。(極めて悪質な犯罪で、永久失格となった事例はあります)
逮捕に伴う契約解除は、あくまでも球団の判断なのです。野球協約の失格処分と混同しないように気を付けましょう。
25年2月 オンラインカジノ報道の考察
オンラインカジノを利用していた場合は、賭博罪に該当します。
その常習性により刑罰は異なりますが、警察庁からは以下のとおり発信されています。
海外で合法的に運営されているオンラインカジノであっても、日本国内から接続して賭博を行うことは犯罪です。
実際にオンラインカジノを利用した賭客を賭博罪で検挙した事例もあります。
バカラ、スロット、スポーツベッティング等、その名称や内容にかかわらず、オンライン上で行われる賭博は犯罪です。絶対にやめましょう。
※ 賭博罪 賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料
常習賭博罪 常習として賭博をした者は、3年以下の懲役
(警視庁HPより引用)
そのうえでNPBの判断については、その賭博が野球協約に違反していたか否かがポイントです。
野球賭博や八百長に関与していた場合は、巨人の野球賭博問題と同様に失格処分は避けられないでしょう。
ただし、直近の報道では「野球賭博には関与なし」との情報もあり、野球協約には違反していない可能性が高いです。
そうなると選手の処分は球団の判断に委ねられます。
これ以上無責任な推測は避けますが、動向は見守りたいと思います。
最後までご覧いただきありがとうございました。