当記事では、定期的に話題になるセ・リーグのDH導入論争について解説します。
MLBのナショナルリーグも2022年から正式にDH制度が導入され、セ・リーグの動向にも注目が集まっています。
注目度の高いDH制の動向についてまとめますので、参考になれば嬉しいです。
筆者のプロフィール
野球観戦歴20年超の野球オタクで、元球場職員の経歴を持ちます。
愛読書は公認野球規則で、野球のルール解説も得意としています。
セ・リーグ「DH制」導入論争の経緯
プロ野球発足当時は「DH」という仕組みは存在しません。
それが現代では、DHを導入していないリーグの方が珍しい状況へと変化してきています。
DH制度は、主に以下のような流れで普及していきました。
DH制度普及の流れ
- 1973年、MLBのアメリカンリーグでDH制度を採用
- 1975年、NPBのパ・リーグでDH制度を採用
- 1987年、日本シリーズのパ・リーグ主催試合でDH制度を採用
→セ・リーグのチームも初めてDHの選手を用意することになった - 1987年、交流戦のパ・リーグ主催試合でDH制度を採用
パ・リーグはDHを採用してから50年近く経つのですね
DHの有無は、リーグの特色としてごく自然に受け入れられていました。
セ・リーグでDH導入の是非が特に活発化してきたのは、比較的最近のことです。
セ・リーグDH導入論争の経緯
- 2012年頃から、セ・リーグでのDH導入が検討されはじめた
- 2019年オフ、巨人・原監督がDH採用を強く訴えた
- 2020年オフ、リーグ理事会で巨人オーナー名でDH採用の提案書が提出された
- 2022年、長年DH不採用だったMLBのナ・リーグでDHが正式採用(セ・リーグの動向に注目が集まった)
特に転機となったのが、2019年のオフでしょう。
2019年の日本シリーズは巨人VSソフトバンクの対戦カードでしたが、巨人が0勝4敗と惨敗します。
セ・リーグの強化を狙うため、敗れた巨人の原監督が、DH制の導入を強く主張したのです。
当時は「パ高セ低」と呼ばれるほど、リーグ格差が懸念されていました
その後もオーナー会議で議論が繰り返されるなど、オフシーズンの度にセ・リーグのDH導入は話題となっています。
セ・リーグ内での合意が取れず、導入には至っていませんが、導入の是非を本気で議論しているという現状なのです。
「DH制」導入に反対している球団はどこ?
セ・リーグへのDH制度導入については、巨人が積極的に主張しています。
それでも導入にいたっていないということは、当然反対している球団も存在するのです。
週刊誌やスポーツ紙の報道を参考にすると、各球団のスタンスは以下のようです。
球団 | DH導入への意見 |
---|---|
巨人 | 積極的に導入推進 |
中日 | 試す価値はあり |
ヤクルト | 反対? |
DeNA | 反対? |
広島 | 反対 |
阪神 | 反対 |
あくまでも「噂」程度にご理解ください
また、2023年の各監督のスタンスは以下のように報道されました。
監督 | DH導入への意見 |
---|---|
巨人・原監督 | 賛成: リーグ強化につなげたい |
中日・立浪監督 | 中立: 試験的に導入するのはあり |
ヤクルト・高津監督 | 反対: 戦術面の醍醐味が失われる |
DeNA・三浦監督 | 反対: リーグの特色が失われる |
広島・新井監督 | 反対: 戦術面の醍醐味が失われる |
阪神・岡田監督 | 反対: 戦術面の醍醐味が失われる |
2023年の監督会議で議長を務めた阪神・岡田監督は「監督が楽になりすぎてつまらん」とはっきり否定しています。
また、近年はリーグ格差も無くなってきたことにより、巨人・原監督のトーンも下がってきている模様です。
「DH制」を導入するメリット・デメリット
セ・リーグへの導入が議論されているDH制度ですが、そもそもどんなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
ここでは、賛成派/反対派の主張を整理してみます。
導入賛成派が主張するメリット
DH導入賛成派は、主に以下のようなメリットを主張しています。
野手の出場機会が増える
- 打撃に特化した(守備が苦手な)選手もDHでスタメン出場できる
- 守備に特化した(打撃が苦手な)選手もスタメン出場できる
(投手が打席に立たないので、1名くらいなら打てなくても我慢できる) - ベテランや体調に懸念がある選手を、DHで休ませながらスタメン起用できる
完投能力の高いエース格の投手が育つ
- 代打で交代にならないため、長いイニングを投げられる
- 相手の打線に投手がいないため、息をつく暇がなく投手能力が向上する
リーグのレベルが向上する
- DHを含む強力な打線を組むことで、得点能力が向上する
- 強力な打線と対戦するのが当たり前となることで、投手能力が向上する
反対派が主張するデメリット
DH導入のデメリットは、以下のようなものがあげられます。
- 投手に代打を出すタイミング・代打の選手等の戦術の醍醐味が失われる
- 投手交代のタイミングが簡単になり、面白みが薄れる
リーグの特色が弱まってしまう
- セ・リーグとパ・リーグの違いが薄まってしまう
- 投手が打席に立つのもセ・リーグの面白さである
なお、これらは表向きの理由であり、「選手層が厚いチームに有利だ」という本音もあるようです。
DH選手を用意できる資金力のある球団が有利ですもんね
「巨人は自分たちが有利になるルールにしたいだけでは?」という批判が存在するのも事実なのです。
世界のプロリーグでは「DH制」が主流
2023年時点で、世界の主要なプロリーグはDH制が主流です。
2022年にMLBのナ・リーグがDHを採用したことで、セ・リーグは最後のDH不採用リーグとなっています。
DHが採用されている主なリーグ
- MLB(ア・リーグ)
- MLB(ナ・リーグ)
- メキシカンリーグ(メキシコ)
- セリエ・ナシオナル・デ・ベイスボル(キューバ)
- リーガ・ベネソラーナ・デ・ベイスボル・プロフェシオナル(ベネズエラ)
- リーガ・デ・ベイスボル・プロフェシオナル・ロベルト・クレメンテ(プエルトリコ)
- オーストラリアン・ベースボールリーグ(オーストラリア)
- セリエA(イタリア)
- KBOリーグ(韓国)
2023年WBCでベスト8に進出した各国のプロリーグや、韓国KBO等は既にDH制です。
セ・リーグに「DH制」は導入されるのか?
セ・リーグにDH制が導入されるためには、各球団の合意が必要です。
MLBがDH制に統一されたことはひとつの追い風になりそうなので、2024年以降の動向には注目です。
ただ、2023年の議論はあまり盛り上がってませんね・・
もっともDHにこだわっていた巨人がトーンダウンしているので、セ・リーグのDH導入にはまだ時間がかかるかもしれません。
セパの戦力格差や人気格差等、何か危機感を煽る要因がないと導入は難しいかもしれませんね・・