近年、野球界で注目を集めているセイバーメトリクス。
野球に統計学を持ち込み、データを使って選手評価や戦略立てを行う手法です。
最近は聞きなれない野球指標を目にすることも増えたのではないでしょうか。
当記事では、守備指標UZR(アルティメット・ゾーン・レーティング)について解説します。
筆者のプロフィール
野球観戦歴20年超の野球オタクで、元球場職員の経歴を持ちます。
愛読書は公認野球規則で、野球のルール解説も得意としています。
UZRとは?
UZRとはアルティメット・ゾーン・レーティングの略で、野球選手の守備能力を評価する指標ですが、UZRの計算方法は非常に複雑です。
一般人にはそもそも計算に必要なデータを得ることが出来ないため、計算は不可能でしょう。
UZRとは、「その年の同じリーグの同じポジションの選手と比較して、どれだけ優れた守備を見せたか」と理解しておけば充分です。
続けて具体的な計算方法を解説しますが、難しい計算が苦手な方はUZRの計算方法は読み飛ばしてください・・・
UZRの計算方法
UZRの計算方法を解説します。
UZR計算のポイントは「ゾーン」と「相対評価」です。
まずは「ゾーン」について、Wikipediaの解説を見てみましょう。
UZRの算出においては、まずグラウンドを多数の「ゾーン」に区分し、各ゾーンについて発生した打球の種類(バント・ゴロ・外野へのライナー・外野へのフライ)や速度(遅い・中間・速い)を記録する。そしてそれぞれのゾーンにおいて生じた特定の種類の打球についてリーグ全体でどれだけのアウトが記録されたかを算出する。このデータを基に、個別の野手のプレーを評価し、各種の補正を合わせて「リーグにおける同じ守備位置の平均的な選手が守る場合に比べて、守備でどれだけの失点を防いだか」を計算する。
(Wikipediaより)
要するに、UZRを算出するためにグラウンドをいくつもの「ゾーン」に区切っているのですね。
どのような打球がアウトになっているのかを、各ゾーン毎にリーグの平均数値を算出します。
この平均数値と各選手の各プレーを比較し、「相対評価」することで、それぞれのプレーにプラス評価、マイナス評価が与えられます。
このプラス評価とマイナス評価の積み重ねがUZRです。
では、UZRのプラス評価とマイナス評価はどのようにして判定されるのでしょうか。
こちらもWikipediaを参照しながら解説します。
まずはプラス評価です。
例として、平均的には15%の割合で中堅手がアウトにし、10%の割合で左翼手がアウトにし、残りの75%はヒットになるような外野へのライナーを考える。この打球について、仮に中堅手が捕球しアウトを成立させたなら、通常は25%しかないアウトの見込みを100%にしたものとして中堅手は100%と25%の差分である0.75「プレー」の評価を得る。
さらにUZRは守備の評価を得点の単位により行うため、プレー数の評価に得点価値を掛け合わせる。一般的な外野への安打はチームの失点を約0.56点増やす。また、アウトは失点を約0.27点減らす。すなわち、ヒットになるはずだった打球をアウトにする働きは守備側チームの失点の見込みを0.83点減らすことになる。プレー数0.75に得点価値0.83を乗じた0.6255点が、当該中堅手がそのライナーをアウトにしたことによって「防いだ失点」となる。
(Wikipediaより)
プラス評価の算出式をまとめると以下のとおりです。
プラス評価の算出方法
①ヒットを防いだ「プレー」の評価を算出する
→ 100% – (リーグの平均数値)=プレー評価
②防いだ失点の見込みを算出する
③①と②を掛け合わせる
なお、ここで言うリーグの平均数値とは、前述のゾーン別に算出された値です。
プラス評価の算出リーグの平均数値や失点見込みさえ算出できれば比較的シンプルですが、マイナス評価は厄介です。
仮に上記で例とした打球がヒットになった場合、中堅手と左翼手が共にマイナス評価を受ける。この際、まずヒットの発生によってどれだけの損害を被るかを計算する。通常25%はアウトになる見込みだったのだから、アウトにできなければ通常に比べて0.25プレーの損失が生じたことになる。
そしてUZRではこの0.25プレーの損失を、責任を持つ守備位置で分配していく。通常、左翼手がアウトにする見込みが10%、中堅手が15%であるから、左翼手は通常なら発生されるべきだったアウトについて40%(10/25)の、中堅手は60%(15/25)の責任を負う。すなわち、左翼手は0.25プレーの40%で0.1プレー、中堅手は0.25プレーの60%で0.15プレーのマイナスである。打球の得点価値は前述したように0.83点であるから、もし打球がヒットになれば、左翼手は0.1プレーに0.83点を乗じた0.083点、中堅手は0.15プレーに0.83点を乗じた0.123点だけチームの失点を増加させたとしてマイナス評価される。つまり、UZRでは、一般的にその守備位置の選手がアウトを成立させるべき打球をアウトにできなかったときにマイナス評価が与えられるのである。
(Wikipediaより)
マイナス評価の考え方はプラス評価と真逆と考えてください。
アウトに出来るゾーン、打球がヒットになった場合、マイナス評価となります。
マイナス評価の難しい点は、関係するポジションの選手にマイナス評価が分配される点です。
左中間など、複数のポジションにアウトに出来る可能性がある打球については、各ポジションの責任度が算出され、責任の大きさに応じてマイナス評価が計算されます。
UZRではこのような考え方で、全試合、全打球を評価します。
さらにランナーの状況、アウトカウント、球場などの要素を踏まえて補正が加えられ、UZRの数値が決定されています。
UZRの評価基準
現在、日本プロ野球ではUZRは公式記録とはみなされておらず、UZRのデータは合同会社デルタの提供するサービス「ESSENCE OF BASEBALL」を閲覧する必要があります。
守備を数値化する指標はなかなかありませんので、UZRは重宝されています。
従来はエラー数、エラー率が主な守備指標でしたが、UZRが誕生したことで踏み込んだ守備評価が可能になりました。
UZRの評価基準は以下のように考えられています。
評価 | UZR |
ゴールデングラブ級 | 15 |
優秀 | 10 |
平均以上 | 5 |
平均 | 0 |
平均以下 | -5 |
悪い | -10 |
非常に悪い | -15 |
UZRとゴールデングラブ賞を比較してみると、面白い結果が見えてくるかもしれませんね。
UZRの弱点
複雑な計算方法で算出されるUZRですが、UZRにも弱点はあります。
UZRの弱点
- 相対評価であるがための弱点
- 捕手を評価するのが難しい
相対評価であるがための弱点
UZRとは「その年の同じリーグの同じポジションの選手と比較して、どれだけ優れた守備を見せたか」を評価する指標です。
つまり、同じ年、同じリーグ、同じポジションの選手と比較する相対評価なのです。
相対評価ということは、同じ能力の選手でも、リーグや年度が変わればUZRの数値は変わってくるわけです。
極端な例を出すと、一般的なプロ野球選手が高校野球の中でプレーし、UZRを算出すると、プラス評価になる可能性が高いです。
プロ野球選手なら高校野球の平均値よりは守備も上手いはずですからね。
一方、同じ選手がメジャーリーグでプレーすると、メジャーリーガーには守備能力で勝てず、UZRはマイナス評価になるはずです。
このように、UZRは相対評価なので周りのレベルが低ければUZRは高くなり、周りのレベルが高ければUZRは低くなる傾向があります。
そうなると、年度やリーグ、ポジションを超えてUZRを比較することの意味が薄れてしまいます。
2019年の選手AのUZRが5.0、1995年のB選手のUZRが10.0だとしても、必ずしもB選手の方が守備が上手い、とは言い切れないのです。
1995年に守備が上手い選手が少なく、B選手の評価が相対的に上がった可能性があるためです(逆もまた然り)
このように、相対評価で算出されるUZRは評価基準が異なるリーグ、年度、ポジションなどと比較し難いという弱点があります。
捕手を評価するのが難しい
UZRは守備指標とはいえ、その評価は「打球処理」に重点が置かれています。
外野手、内野手ならこれで評価することは可能ですが、捕手の場合はそうはいきません。
〈捕手の評価が難しい理由〉
- 打球処理の機会が少ない
- リード、フレーミングなど捕手の能力は打球処理以外にも重要な要素が多い
そもそも捕手は打球処理の機会は多くありません。
守備機会が少ないポジションでは、UZR算出のための材料が少なく、正確な判定が難しくなるのです。
また、捕手には打球処理以上に投手のリード力や、際どい球をストライクに見せるフレーミング技術などが重視されます。
これらの技術はUZRでは評価されませんので、捕手を正しく評価できる指標とは言えないでしょう。
UZRまとめ
当記事の内容を箇条書きでまとめます。
- UZRとは、「その年の同じリーグの同じポジションの選手と比較して、どれだけ優れた守備を見せたか」
- 計算式は難解
- 平均以上ならプラス評価、平均以下ならマイナス評価
- 年度、リーグ、ポジションを超えた比較には向かない
- 捕手を評価するには向かない
UZRをはじめセイバーメトリクスを理解すると野球はさらに面白くなります。
是非、他の野球指標も調べ、野球を楽しんでくださいね。