この記事では野球におけるサイクルヒットについて解説します。
主な内容は以下のとおりです。
- サイクルヒットの言葉の定義
- サイクルヒットの歴代達成状況
- サイクルヒットを達成する選手の特徴
- ナチュラルサイクルヒットについて解説
- サイクルヒットにまつわる有名エピソード
筆者のプロフィール
野球観戦歴20年超の野球オタクで、元球場職員の経歴を持ちます。
愛読書は公認野球規則で、野球のルール解説も得意としています。
サイクルヒットの言葉の定義
まずはサイクルヒットの言葉の定義を整理してみましょう。
シングルヒット、ツーベースヒット、スリーベースヒット、ホームランの全てを1試合に打つこと
サイクルヒットはノーヒットノーラン以上に珍しい記録であり、NPB(日本プロ野球機構)の公式記録としても記録されます。
サイクルヒットの歴代達成者
歴代達成者はNPB(日本プロ野球機構)の公式記録に一覧が掲載されています。
ここでは、この歴代達成者をいくつかの視点で分析します。
歴代達成者は71名76回
公式戦でのサイクルヒットは合計で71名、76回達成されています。
初回達成者は1948年、阪神の藤村富美男が甲子園で達成。
2021年シーズンでは、DeNA・牧、ヤクルト・塩見が達成しています。
複数達成者は4名!最多は横浜ローズの3回
一度達成するだけでも奇跡的なこの記録を複数達成している選手もいます。
過去、複数達成している選手は4名であり、3回達成している選手は90年代に横浜で活躍したローズだけです。
現役選手では福留孝介が複数達成を経験しており、福留は唯一複数球団でサイクルヒットを達成した選手でもあります。(松永浩美は阪急・オリックスで達成していますが、阪急・オリックスは実質同一球団です。)
選手名 | 達成回数 | 球団 | 達成年月日 |
藤村 富美男 | 2 | 阪 神 | 1948.10.2 |
1950.5.25 | |||
松永 浩美 | 2 | 阪 急 | 1982.10.8 |
オリックス | 1991.5.24 | ||
ローズ | 3 | 横 浜 | 1995.5.2 |
横 浜 | 1997.4.29 | ||
横 浜 | 1999.6.30 | ||
福留 孝介 | 2 | 中 日 | 2003.6.8 |
阪 神 | 2016.7.30 |
サイクルヒットを達成する選手の特徴は?
サイクルヒットを達成する選手にはどのような特徴があるのでしょうか。
スリーベースヒットを打つためには、足の速さが必須です。外野の間を抜ける打球を打てたとしても、3塁まで到達する速さが必要になります。
さらに、この足の速さに加えてホームランを打つパワーも必要です。
サイクルヒットはあのイチローや松井秀喜も達成していない記録であり、実力だけでは達成できない、「運」も必要である記録と言えるでしょう。
トリプルスリーと比較
パワー、スピード、運が必要となるサイクルヒットですが、同じくパワー、スピードの両方がハイレベルに求められる記録があります。
トリプルスリーはサイクルヒット以上に達成が困難な記録であり、パワー、スピードの両面で圧倒的な実力が求められます。
トリプルスリー達成者は過去10名。
この10名のサイクルヒット達成状況を調査してみました。
選手名 | 球団 | トリプルスリー 達成年 | サイクルヒット |
岩本 義行 | 松 竹 | 1950 | 当時概念無し |
別当 薫 | 毎 日 | 1950 | 当時概念無し |
中西 太 | 西 鉄 | 1953 | 当時概念無し |
簑田 浩二 | 阪 急 | 1983 | 未 |
秋山 幸二 | 西 武 | 1989 | 達成済 |
野村 謙二郎 | 広 島 | 1995 | 未 |
金本 知憲 | 広 島 | 2000 | 達成済 |
松井 稼頭央 | 西 武 | 2002 | 達成済 |
山田 哲人 | ヤクルト | 2015 | 達成済 |
柳田 悠岐 | ソフトバンク | 2015 | 達成済 |
トリプルスリー達成者のうち、5名はサイクルヒットも達成済です。
さらに、サイクルヒットが記録として意識され始めたのは、1965年以降(後述)なので、1950年代の岩本、別当、中西も意識をしていれば達成できていたかもしれません。
サイクルヒットは運の要素が強いとは言われますが、パワー・スピードともに圧倒的な実力があれば、やはりサイクルヒット達成の可能性は上がるということですね。
ナチュラルサイクルヒット
サイクルヒットには、さらに珍しいナチュラルサイクルヒットという概念も存在します。
ここでは、このナチュラルサイクルヒットについても解説します。
ナチュラルサイクルヒットの言葉の定義
ナチュラルサイクルヒットの言葉の定義は以下のとおりです。
以下の順番でヒットを打ち、達成されたサイクルヒットを指す。
- シングルヒット
- ツーベースヒット
- スリーベースヒット
- ホームラン
シングルヒット、ツーベースヒット、スリーベースヒット、ホームランを打つだけでなく、順番まできれいに揃ったサイクルヒットというわけですね。
ナチュラルサイクルヒットの達成者
ナチュラルサイクルヒットは珍しいサイクルヒットの中でもさらに貴重で、達成者は過去に5名しか存在しません。
<ナチュラルサイクルヒット達成者>
選手名 | 球団 | 達成年月日 |
藤村 富美男 | 阪 神 | 1950.5.25 |
近藤 和彦 | 大 洋 | 1961.7.8 |
得津 高宏 | ロッテ | 1976.4.17 |
岡村 隆則 | 西 武 | 1985.5.22 |
村松 有人 | ダイエー | 2003.7.1 |
サイクルヒット達成にまつわる有名エピソード
サイクルヒットは珍しい記録であるだけに、サイクルヒットにまつわる面白いエピソードは多数存在します。
ここでは、3つのエピソードをご紹介します。
サイクルヒットの誕生(1965年 ダリル・スペンサー)
サイクルヒットの概念が誕生したのは、1965年のことです。
阪急に入団したダリル・スペンサーは1965年にサイクルヒットを達成したものの、その試合後、サイクルヒットについて触れる記者は1人もいませんでした。
そこでスペンサーは記者に逆質問
「とても珍しい記録なのに、なぜ誰も質問してこないんだい?」
この一言で、サイクルヒットが記録として意識されるようになるのです。
なお、スペンサーがサイクルヒットを達成する前には23回サイクルヒットが記録されていたことが分かっています。
この23回については、本人は気づかないうちに達成していた記録ということですね。
サイクルヒットのアシスト!?(1983年 山本浩二)
1983年の山本浩二のサイクルヒットは物議を呼びました。
スリーベースヒットが出たらサイクルヒット、という打席で山本の放った打球は痛烈なライナーで外野の間を抜けます。
しかし、山本は当時36歳。
三塁まで到達できるスピードではありませんでした。
それにもかかわらず、サイクルヒットを意識してか山本は三塁へ突入。
悠々アウトかと思いきや、なんと阪神のサード掛布が転倒するような素振りを見せ、セーフとなるのです。
結果的に山本浩二は当時、史上最年長となるサイクルヒットを記録しました。
これには抗議の電話が殺到。
掛布がわざと山本のサイクルヒットをアシストしたのではないか、と批判を集めました。
当時は山本も掛布も「わざと」であることは認めませんでしたが、時を経た2008年、この真相が明らかになりました。
バラエティ番組(中居正広のブラックバラエティ)に山本と掛布が出演した際、このサイクルヒットを掛布が「わざとタッチせず」アシストしたことを認めたのです。
サイクルヒットにリーチをかけた山本が、三塁塁上で掛布に対し「次の打席で外野の間を抜いたら突っ込むから、よろしく」と伝えていたそうです。
その試合は広島が12-0と大量リードしていたこともあり、試合結果に影響はありませんでしたが、このエピソードは掛布の漢気溢れる良い話として受け取る見方と、八百長じゃないかと批判的に受け取る見方と、両面の意見が存在します。
表彰されるまで気づかなかった(2019年 梅野隆太郎)
キャッチャーとして史上4人目のサイクルヒットを達成した阪神梅野の達成の瞬間は意外なものでした。
梅野のサイクルヒット達成は対DeNA戦でした。
6-8と2点を追いかける8回、梅野はホームランを放ちます。
この回、阪神は打者一巡の猛攻で逆転し、再び梅野に打席が回ってきます。
梅野はここまでシングルヒット、スリーベースヒット、ホームラン。
ツーベースヒットが出ればサイクルヒットという状況です。
球場はざわつき、ベンチの脇では花束も用意されていました。
そんな中、梅野の打球は右中間へ。
打球は転々とし、球場全体がサイクルヒットを確信します。
が、しかし、梅野は二塁を蹴って三塁に向かうのです。
記録がスリーベースとなれば、当然サイクルヒット達成とはなりません。
「止まればいいのに」皆がそう思う中、意外な展開となります。
前を走っていたランナーのナバーロが、梅野が三塁に到達する前にホームでタッチアウトとなるのです。
これにより、梅野の記録はツーベースヒットとなり、サイクルヒット達成です。
実は梅野は表彰されるまでサイクルヒットに気づいていなかったのです。
お立ち台では「ナバーロのおかげかな」とおどけて見せ、甲子園の大観衆を笑わせました。
サイクルヒット未遂にまつわる有名エピソード
あと一歩のところでサイクルヒットを逃したケースは多数存在しますが、当時巨人、松井秀喜のケースは語り継がれています。
松井はサイクルヒット達成まであとシングルヒットのみ、というシチュエーションで外野の間を抜ける打球を放ちます。
一塁で止まればサイクルヒットですが、松井は迷わず二塁へ。
結果はツーベースヒットとなり、サイクルヒット達成とはなりませんでした。
これはチームが3点差で負けていたため、チームの勝利を最優先に考えた行動です。
自分の記録よりもチームの勝利を、という松井の人柄がよく分かるエピソードです。
サイクルヒットまとめ
サイクルヒットにまつわるエピソードをはじめ、サイクルヒットについて徹底解説してきました。
ここまでの内容を箇条書きでまとめます。
- サイクルヒット達成者は71名76回
- 複数達成者は4名のみ
- トリプルスリー選手はサイクルヒットも期待大
- ナチュラルサイクルヒットは5名
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