当記事では、野球のトリックプレー「隠し球」について解説します。
隠し球を成功させるための注意点や過去の事例を紹介しつつ、隠し球が激減した背景を解説します。
野球観戦歴20年超の野球オタクで、元球場職員の経歴を持ちます。
愛読書は公認野球規則で、野球のルール解説も得意としています。
野球のトリックプレー「隠し球」とは?
まずは用語の定義について確認しておきましょう。
「隠し球」は古くから使われる野球用語ですが、これは正式にルールに定められた用語ではありません。
一般的に隠し球の意味は以下のとおりです。
野手がボールを隠し持ち、走者が塁から離れたタイミングを狙ってタッチアウトを狙うプレー
走者だけではなく、相手のランナーコーチの目を盗む必要もある高度なプレーです。
パ・リーグの公式動画として、2009年のプレーが残っていましたので以下の動画をご覧ください。(ただ、決定的瞬間は残念ながらカメラマンでも捉えられていません・・)
隠し球を成功させるための注意すべきルール
隠し球は単に走者やランナーコーチの目を盗めば成功するというわけではありません。
隠し球を理解するうえで知っておくべきルールを2つご紹介します。
- タッチアウトにするまでボールインプレーである必要がある
- ボールを持たない投手が投球動作に入るのはNG
この順番に解説します。
ボールインプレーである必要がある
隠し球でタッチアウトが認められるためには、プレーが続いている必要があります。
要するに、ボールインプレーの状態です。
※ボールインプレーについては以下の記事をご覧ください。
走者がタイムを要求すると、ボールデッドとなりプレーは中断します。
プレーを再開するためには投手がボールをもってマウンドに上がる必要があります。
タイムでプレーが途切れてしまうと、タッチアウトを狙う隠し球は不可能なのです。
ボールを持たない投手が投球動作に入るのはNG
隠し球は野手がボールを隠し持つからこそ効果があります。
つまり、投手はボールを持っていない状態です。

隠し球を悟られないように、投手はボールを持っているかのような演技力が必要です。
投手がボールを持っているように振る舞うのが隠し球成功の秘訣ですが、だからといってマウンドに上がってしまうのはNGです。
ボールを持たない投手がピッチャープレートを跨いだり、捕手とのサイン交換をすることはルール違反でボークとなります。
隠し球でアウトにするどころか、相手走者を進塁させてしまうことになるのです。
1999年4月3日の巨人VS阪神で、巨人・元木が隠し球を試みました。
この時、巨人投手・桑田の左足が投手板をまたいでいるように見えたとして、ボークが宣告されています。
プロ野球における隠し球の代表的な事例
隠し球は珍しいプレーではあるものの、2000年代までは数年に1度は見られるプレーでした。
あのイチローも隠し球でアウトになったこともあります。(1999年7月3日オリックスvsロッテ。決めたのは井口資仁)



特に以下の選手は隠し球の名手として知られます。
- 大下剛史(東映)
→1970年に1年で4度成功 - ティム・アイルランド(広島)
→1983年に1年で3度成功 - 元木大介(巨人)
→通算2度成功 - 佐伯貴弘(横浜)
→通算3度成功(01年、05年、06年) - 山﨑浩司(広島・オリックス)
→通算2度成功(07年、09年)
※球団は隠し球成功時の所属球団
プロ野球で隠し球が激減した背景
プロ野球で隠し球が激減した背景は、心理的な理由と物理的な理由のそれぞれが考えられます。
心理的な理由はシンプルでどうしても「隠し球=卑怯・姑息」というイメージがあるためです。



本来はルールの範囲内の立派な頭脳プレーなんですけどね。
過去の隠し球の成功事例でも、成功させた選手が批判されるケースもありました。
こういった理由から、積極的に隠し球を狙う選手が減ったのは理由のひとつでしょう。
高校野球ではプロ野球以上に隠し球は珍しいプレーです。これは高校野球が「教育」の一環であるということも大きいでしょう。
是非はさておき、「正々堂々」がプロ以上に求められる高校野球では隠し球はめったに見られません。
※1979年8月16日の星陵vs箕島のように、過去事例は存在します。
物理的な理由が、選手の防具の変化です。



おそらくこの影響がかなり大きいです。
近年のプロ野球では、ほとんどの選手が怪我防止のためにレガースや肘あてを装着しています。
そのため、出塁した際に防具を外すためにタイムを要求するのです。
タイムを挟む(ボールデッドとなる)と隠し球は成立しないのは前半で解説したとおりです。
つまり、タイムが増えたことで隠し球を狙える機会自体が減ってしまったわけですね。
野球の隠し球 まとめ
ここまでの内容をおさらいします。
野手がボールを隠し持ち、走者が塁から離れたタイミングを狙ってタッチアウトを狙うプレー
卑怯なイメージもある隠し球ですが、あくまでもルールの範囲内の頭脳プレーです。
ボークやボールインプレーのルールと合わせてみると、その難しさが理解できますね。
最後までお読みいただきありがとうございました。