当記事では、日本プロ野球における「ポスティング制度」について解説します。
ポスティングはメジャー移籍を目指す選手のためのルールです。
FA制度との違いや旧ポスティング制度との比較、歴代移籍選手の一覧までご紹介します。
当記事をご覧いただき、ポスティングに関する知識を深めていただければ幸いです。
野球観戦歴20年超の野球オタクで、元球場職員の経歴を持ちます。
愛読書は公認野球規則で、野球のルール解説も得意としています。
ポスティング制度とは?
まずはポスティング制度の内容について解説します。
- ポスティング移籍の流れ
- ポスティング移籍の条件
- 譲渡金の計算方法
の順に解説していきます。
ポスティング移籍の流れ
ポスティング移籍はざっくりと、以下の流れで成立します。
- 球団が選手のポスティングを認める
- 球団の申請手続き(11月上旬~12月上旬)
- MLB球団と選手間の交渉、契約合意
- MLB球団から移籍元球団への譲渡金の支払
球団がポスティング移籍を認めるまでは、選手と所属球団の交渉となります。
一方、ポスティング申請が完了してしまえば、MLB球団と選手の交渉には移籍元球団は関与しません。(選手は交渉経緯を球団やNPBに報告する義務もありません)
選手は複数のMLB球団と交渉が可能です。
交渉可能なMLB球団について
従来は入札で決定した1球団のみの交渉が認められていました。
現在(2012年以降)は希望する全てのMLB球団との交渉が可能となっています。
※旧制度については後述します。
ポスティング移籍の条件
ポスティング移籍をするためのルール上の条件は「球団が認めること」のみです。
ただし、球団から認められるのも簡単ではありません。
メジャーを希望する選手というのは、基本的に能力が高い選手です。
その分、球団への貢献度も高く、手放したくないというのが球団の本音ですよね。
圧倒的な成績を数年に渡って残した選手が、FA権取得が近づいた頃にようやくポスティングを認められる、というケースが多くなっています。
ポスティング移籍に否定的な球団
- 福岡ソフトバンクホークスは、ポスティング移籍を認めない方針として知られています。実際に2023年現在、ポスティング移籍した選手は存在しません。
- 読売ジャイアンツもポスティングに否定的な球団として知られていましたが、2019年に山口のポスティング移籍を容認した実績があります(海外FA権取得の直前だったためとも考えられています)
条件としては球団の容認だけですが、メジャー契約のルールも要チェックです。
海外移籍の場合、「在籍6年以上かつ25歳以上の選手」のみメジャー契約が可能というルールがあるのです。
在籍が短い大卒・社会人選手や、25歳未満の選手はマイナー契約となってしまうのです。
このルールは大谷翔平が24歳でポスティング移籍した際に有名になりました。
大谷はこのルールに抵触したため、マイナー契約で海を渡ったのです。
大谷の年俸はポスティング移籍したにも関わらず、6000万円と大幅減俸となりました(前年の日ハムでの年俸が2億7,500万円)
譲渡金の計算方法
現在のポスティング制度では、譲渡金は選手の契約金(年俸総額)と連動する方式が取られています。
計算式は以下のとおりです。
年俸総額に三段階の比率を乗じた金額の合計額
- 2500万ドルまでの分 20%
- 2500万ドルを超えて5000万ドルまでの分 17.5%
- 5千万ドルを超える分 15%
- マイナー契約の場合は契約金の25%を支払う
- 出来高契約については、獲得した出来高の15%を追加で支払い(毎オフに支払)
3段階の比率というのが少々複雑ですので、具体例を踏まえて解説してみましょう。
仮に、年俸総額が1億ドルの契約があったとします。
この場合、5000万ドルを超えるので15%で「1億×15%」と計算するのは間違いです。
<総額1億円の場合の計算式>
- 2500万ドル×20%=500万ドル
- 2500万ドル(2500万ドルを超えて5000万ドルまでの分)×17.5%=437.5万ドル
- 5000万ドル(5千万ドルを超える分)×15%=750万ドル
⇒1687.5万ドル(500万+437.5万+750万)
なお、この契約金と連動する方式は2018年以降の仕組みです。
以降では、旧ポスティング制度の内容についてもご紹介します。
旧ポスティング制度との比較
ポスティング制度は1998年に調印された「日米間選手契約に関する協定」によりスタートしています。
その内容は適宜見直されており、2013年、2018年に大きな転換を迎えています。
ここでは、以下のルールについて順番に解説します。
- 封印入札方式(~2012年)
- 所属球団が譲渡金額を設定する方式(~2017年)
封印入札方式(~2012年)
ポスティング制度(入札制度)の語源ともなったのがこの仕組みです。
ルールは以下のとおりです。
- 一発勝負の入札形式
- 最高額を示した球団だけが選手との独占交渉権を獲得
- 譲渡金(入札金額)の上限額は無し
- 譲渡金は交渉が成立した場合に、入札した金額を所属元球団に支払う
上限金額も無いため、超大型契約が生まれたのがこの仕組みです。
ダルビッシュ有(5170万3411ドル※当時約38億7800万円)、松坂大輔(5111万1111ドル※当時約60億)の大型契約は有名です。
一方で、封印入札方式には以下のような問題点もありました。
- 他球団の入札額が非公表であるため、入札額が高騰する
- 独占交渉権となるため、他球団の契約を妨害する目的で入札する恐れがある(交渉が不成立となれば譲渡金を支払う必要もない)
岩隈久志がポスティング不成立となった事例(2010年)
オークランド・アスレチックスが1910万ドルという金額で入札しましたが、結果的に契約は不成立となりました。(翌年、岩隈は海外FA権を行使してシアトル・マリナーズに移籍)
真偽は不明ですが、アスレチックスの入札は他球団の契約を妨害する狙いがあったとする声も見られます。
このような問題点を受け、2013年以降は所属球団が譲渡金額を設定する方式となりました。
所属球団が譲渡金額を設定する方式(~2017年)
封印入札方式の問題点を改善するため、2013年から新たな仕組みに生まれ変わりました。
- 譲渡金は所属元球団が決定する
- 選手は希望する全ての球団と交渉可能
- 譲渡金の上限は2000万ドル
全ての球団と交渉可能という点については、選手にとっては移籍の可能性が高まる仕組みです。
一方で、譲渡金の上限が2000万ドルとなった点はNPBにとってはやや不利なルール改定でした。
さらに2018年以降は、現在の契約金と連動する方式に代わっています。
海外FA権とポスティング制度の違い
日本プロ野球からメジャー移籍する方法は、ポスティング制度だけではありません。
ここでは、海外FA権との違いも整理します。
海外FA権 |
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ポスティング制度 |
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当記事では概要の解説にとどめますので、さらに詳しくFA権について知りたい方は以下の記事も合わせてご覧ください。
歴代ポスティング移籍選手一覧
これまで、ポスティング制度を活用して移籍した選手は以下のとおりです。
年度 | 選手 | 移籍元 | 移籍先 |
1998年 | アレファンドロ・ケサダ | 広島 | シンシナティ・レッズ |
2000年 | イチロー | オリックス | シアトル・マリナーズ |
2001年 | 石井一久 | ヤクルト | ロサンゼルス・ドジャース |
2002年 | ラモン・ラミーレス | 広島 | ニューヨーク・ヤンキース |
2003年 | 大塚晶文 | 中日 | サンディエゴ・パドレス |
2004年 | 中村紀洋 | 近鉄 | ロサンゼルス・ドジャース |
2005年 | 森慎二 | 西武 | タンパベイ・デビルレイズ |
2006年 | 松坂大輔 | 西武 | ボストン・レッドソックス |
2006年 | 岩村明憲 | ヤクルト | タンパベイ・デビルレイズ |
2006年 | 井川慶 | 阪神 | ニューヨーク・ヤンキース |
2010年 | 西岡剛 | ロッテ | ミネソタ・ツインズ |
2011年 | 青木宣親 | ヤクルト | ミルウォーキー・ブルワーズ |
2011年 | ダルビッシュ有 | 日ハム | テキサス・レンジャーズ |
2013年 | 田中将大 | 楽天 | ニューヨーク・ヤンキース |
2015年 | 前田健太 | 広島 | ロサンゼルス・ドジャース |
2017年 | 大谷翔平 | 日ハム | ロサンゼルス・エンゼルス |
2017年 | 牧田和久 | 西武 | サンディエゴ・パドレス |
2018年 | 菊池雄星 | 西武 | シアトル・マリナーズ |
2019年 | 筒香嘉智 | DeNA | タンパベイ・レイズ |
2019年 | 山口俊 | 巨人 | トロント・ブルージェイズ |
2020年 | 有原航平 | 日ハム | テキサス・レンジャーズ |
2021年 | 鈴木誠也 | 広島 | シカゴ・カブス |
2022年 | 吉田正尚 | オリックス | ボストン・レッドソックス |
2022年 | 藤浪晋太郎 | 阪神 | オークランド・アスレチックス |
ポスティング移籍が不成立となった選手一覧
ポスティング制度を使用したものの、不成立となった選手は以下のとおりです。
年度 | 選手 | 当時球団 |
1998年 | ティモニエル・ペレス | 広島 |
2002年 | 大塚晶文 | 近鉄 |
2005年 | 入来祐作 | 日ハム |
2008年 | 三井浩二 | 西武 |
2010年 | 岩隈久志 | 楽天 |
2011年 | 真田裕貴 | DeNA |
2011年 | 中島裕之 | 西武 |
2015年 | トニー・バーネット | ヤクルト |
2019年 | 菊池涼介 | 広島 |
2020年 | 西川遥輝 | 日ハム |
2020年 | 菅野智之 | 巨人 |
ポスティングは不成立となったものの、岩隈や中島のように海外FA権でメジャー移籍するケースも目立ちます。
また、大塚は2002年にはポスティング不成立となっていますが、翌年に再度ポスティング申請し、メジャー移籍を実現しています。
ポスティング制度 まとめ
もう一度、ポスティング移籍の流れを確認してみましょう。
- 球団が選手のポスティングを認める
- 球団の申請手続き(11月上旬~12月上旬)
- MLB球団と選手間の交渉、契約合意
- MLB球団から移籍元球団への譲渡金の支払
球団が選手のポスティングを認めるのは簡単なことではありませんが、今後もメジャーで活躍する選手が増えることを期待したいですね。
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