野球には、様々なアウトの取り方が存在します。
タッチをしてアウトになるタッチアウト、ベースに送球することでアウトになるフォースアウト、ここまでならまだ簡単ですが、さらにアピールすることでアウトになるケースも存在します。
アピールプレイ(アピールアウト)と呼ばれるルールであり、少々マニアックなルールです。
当記事では、このアピールプレイ、アピールアウトのルールを分かりやすく解説します。
野球観戦歴20年超の野球オタクで、元球場職員の経歴を持ちます。
愛読書は公認野球規則で、野球のルール解説も得意としています。
アピールプレイ(アピールアウト)とは?
アピールプレイとは、その名のとおりアピールすることで走者をアウトにするを指します。
裏を返せば、アピールが無ければ審判はアウト判定することはありません。
アピールプレイは公認野球規則5.09(C)で規定されています。
以下は公認野球規則5.09(C)の引用です(一部抜粋しています)。
※複雑な記載ですので、規則の引用は読み飛ばしても構いません。
次の場合アピールがあれば、走者はアウトになる。
(1)飛球が捕らえられた後、走者が再度の触塁(リタッチ)を果たす前に、身体あるいはその塁にタッチされた場合。
(2)ボールインプレイのとき、走者が進塁または逆走に際して各塁に触れ損ねたとき、その塁を踏み直す前に、身体あるいは触れ損ねた塁に触球された場合。
(3)走者が一塁をオーバーランまたはオーバースライドした後、直ちに帰塁しないとき、(一塁に帰塁する前に)身体または塁にタッチされた場合。
(4)走者が本塁に触れず、しかも本塁に触れ直そうとしないとき、本塁に触球された場合。公認野球規則5.09(C)より
この(1)~(4)がアピールプレイの対象となります。
まずはこのアピールプレイの対象となるプレーについて、ご説明します。
アピールプレイの対象となるプレー
公認野球規則5.09(C)の内容を簡単に記載すると、以下のようになります。
- (1)-①フライアウトで飛び出した走者が塁に戻らない
- (1)-②タッチアップでの離塁が捕球よりも早い
- (2)ベースの踏み忘れ
- (3)1塁オーバーラン後、1塁に戻らない
- (4)本塁の踏み忘れ
※(1)は便宜上、二つの内容に分けています。
これに該当するプレーを発見した場合は、該当の走者にタッチするか、該当の塁にタッチしてアピールすることにより、その走者をアウトにすることが出来ます。
それでは、アピールプレイの対象となる5つのプレーをひとつずつ解説します。
(1)-①フライアウトで飛び出した走者が塁に戻らない
打者がフライを打ち上げた際、塁上にいた走者が飛び出してしまうケースは頻繫に見られます。
フライが捕球された場合、走者にはリタッチの義務が発生し、元の塁に戻る必要がありますよね。
この時、走者が元の塁に戻る前に野手がタッチ、または塁を踏むことで走者はアウトとなりますが、このプレーの根拠はこのアピールプレイなのです。
飛び出した走者をアウトにするためには、該当の塁に送球すれば良い、つまり、フォースプレイでアウトに出来ると誤解している方は多いです。
しかしながら、フォースプレーはあくまでも「進塁義務」に関連して発生するプレーであり、「リタッチの義務」はアピールプレイになるのです。
フォースプレイ、進塁義務のルールは以下の記事をご覧ください。
【野球基礎】タッチしないアウトってどんなルール?【フォースプレー】
なお、本来アピールプレイでは審判にアピールする必要がありますが、リタッチの義務に関連したアピールプレイでは、アピールは省略しても構わないとされています。
つまり、タッチ、もしくは塁を踏むだけでアウトに出来るのです。
一見するとフォースアウトと変わりませんので、これがフォースプレイと誤解される原因とも言えます。
(1)-②タッチアップでの離塁が捕球よりも早い
タッチアップでのスタートが、野手の捕球より早い、というケースもアピールプレイでアウトになります。
リタッチの義務に反している、という意味では、先ほどの「(1)-①フライアウトで飛び出した走者が塁に戻らない」と同じです。
そのため、公認野球規則上は同じ規定に含まれています。
こちらのケースがアピールプレイであることは、多くの方がご存じなのではないでしょうか。
世紀の大誤審とも知られる、2006年3月12日のWBC2次ラウンド、日本VSアメリカ戦の事例は有名ですよね
(2)ベースの踏み忘れ
走者がベースを踏み忘れていたとき、野手が走者か該当の塁にタッチし、審判にアピールすることで、該当の走者をアウトにすることが出来ます。
アピールプレイと言えば「踏み忘れ」を連想する方も多いのではないでしょうか。
踏み忘れのアピールはアピールプレイの中でも代表的なプレーです。
なお、ここでのベースの踏み忘れには、「フライアウトで飛び出した走者が帰塁する際の走塁」も含まれます。
外野への大飛球に対して、1塁ランナーが2塁を回って3塁に向かっていたとします。
この場合、外野がフライをキャッチすると、あわててランナーは元の塁に戻りますよね。
このようなケースで元の塁に戻るときは、必ず逆の順番(3塁→2塁→1塁)で帰塁する必要がありますが、この際にベースを踏み忘れた場合もアピールプレイでアウトとなります。
この帰塁時の踏み忘れは、ランナーが慌てていることも多く、最も発生しやすいアピールプレイとなっています。
(3)1塁オーバーラン後、1塁に戻らない
このケースは、非常に珍しいケースです。
野球のルールでは、1塁だけは駆け抜けることが認められていますが、原則、駆け抜けた後はすぐに1塁に戻るように定められています。
この「すぐに1塁に戻る」を怠った場合に、アピールプレイでアウトになる、という規定です。
考えられるケースとしては、1塁を駆け抜けた選手に代走が出る際に1塁に戻らず、そのままベンチに戻ってしまうケースが挙げられますね。
めったに発生することのない、レアケースと言えるでしょう。
(4)本塁の踏み忘れ
本塁については、(2)のベースの踏み忘れとは別に、個別の規定も定められています。
本塁の踏み忘れにおける特殊な点は、走者が本塁に触れないだけでなく、「本塁に触れ直そうとしないとき」という条件が付加されています。
走者が本塁に触れようとしている限りは、アピールプレイは成立せず、タッチプレイでアウトにする必要があるのですね。
【参考】打順の間違い
攻撃側が打順を間違って打席に立ち、その打席を完了した場合、守備側がアピールすることで本来打つべき打者がアウトとなります。
公認野球規則6.03 打者の反則行為にて定められているルールであり、厳密にはアピールプレイの規定とは異なりますが、こちらもアピールが必要なアウトであることから、アピールプレイの一種であると考えられています。
(1)打順表に記載されている打者が、その番のときに打たないで、番でない打者(不正位打者)が打撃を完了した(走者となるか、アウトになった)後、相手方がこの誤りを発見してアピールすれば、正位打者はアウトを宣告される。
公認野球規則6.03より抜粋
アピールの方法・タイミング
アピールの方法についても、公認野球規則にて規定されています。
アピールは言葉で表現されるか、審判員にアピールとわかる動作によって、その意図が明らかにされなければならない。プレーヤーがボールを手にして塁に何気なく立っても、アピールをしたことにはならない。アピールが行われているときはボールデッドではない。
公認野球規則5.09(C)より
やや抽象的な記載ではありますが、アイコンタクトでも、言葉でも、塁を指さす仕草でも、審判に伝われば何でも良いようです。
アピールで重要なのは方法ではなく、タイミングです。
タイミングを逃すと、アピールの権利が消滅してしまう可能性もありますので要注意です。
- ボールインプレー中に限定される
- 次のプレーが開始すると、アピールの権利は消滅する
- (イニング終了時)野手がフェアゾーンを離れるとアピール権は消滅する
アピールのタイミングはボールインプレー中に限定されており、タイムがかかった状態でアピールをしても、審判からはプレー再開後にアピールするように促されるようです。(アピールが拒否されるわけではありません)
また、いつまでもアピールを認めてしまうとキリがありませんので、アピールの権利は「次のプレーが始まるまで」と定められています。
アピールが出来る状態で野手が別の塁へ送球したり、投手が投球や牽制を行うと、その時点でアピールの権利は消滅してしまいます。
さらに、イニング終了時についても規定されています。
イニング終了時は「次のプレー」の概念がありませんので、野手がフェアゾーンを離れる(ファウルラインを超えてベンチに戻る)ことでアピールの権利は消滅するとされています。
イニング終了時(3アウト)なら、アピールの必要はないじゃないか、と思う方もいるでしょう。ここでポイントとなるのが、第3アウトの置き換えです。
第3アウトの置き換え
第3アウトの置き換えは第4アウトとも呼ばれるルールです。
マニアックなアピールプレイのルールの中でも、さらにマニアックな規定です。
3アウトが成立していても、ほかにアピールアウトが出来るのであれば、それを第3アウトにすることが出来るという規定です。
3アウト目よりも、アピールアウトでアウトを成立させた方が有利である場合に認められます。
Wikipediaに具体的な例が記載されていましたので、引用します。
二死一・二塁の状況において打者が外野に打球を放った。
それを受け二塁走者は三塁→本塁と進塁し得点、一塁走者も本塁突入を狙ったが外野からの返球を受けた捕手が一塁走者に本塁手前で触球(三死)。
打者の二塁打と攻撃側の得点、一塁走者の走塁死が記録された上で第3アウトが成立した。
しかし守備側は、二塁走者が進塁の際に三塁を踏み損ねていたとして三塁に送球、触球しアピール。
このアピールプレイが認められた場合、二塁走者は三塁でアウトとなり(四死)その一連のプレイが第3アウトに置き換えられるためその得点は無効となる。
またこの場合、二塁走者は三塁でフォースアウトになったことになるので、打者の二塁打も取り消され、打数のみが記録される。Wikipediaより
超レアケースと言えますが、貴重な1点を左右する重要なプレーですね。
アピールプレイの実際の事例
アピールプレイは頻繫に発生するプレーではありませんが、過去の事例を取り上げながらさらに理解を深めていきます。
タッチアップが捕球より早かった事例
2006年3月12日のWBC2次ラウンド、日本VSアメリカ戦の事例です。
このプレーは世紀の大誤審とも呼ばれている誤った判定ですが、この判定はアピールプレイの規定に従って判断されています。
8回表1死満塁で、岩村が打ち上げたレフトフライで、三塁ランナー西岡がタッチアップ。
犠牲フライで4点目が入ったと思われたシーンです。
これに対してアメリカ側は「西岡の離塁が、レフトの捕球よりも早い」アピールプレイを行います。
一旦は、捕球時に三塁ベースのそばにいた二塁塁審は「セーフ」の判定を下しますが、主審がこの判定を覆し、「アウト」となりました。
最も近くで見ていた審判の判定を覆したことに日本は大抗議しますが、判定は覆らず、アウトとなり、日本は敗戦を喫しました。
フライで飛び出した走者が帰塁時にベースを踏み忘れた事例
2017年8月6日、巨人・重信の2塁ベース踏み忘れはアピールプレイでアウトとなりました。
大飛球でオーバーランしていた重信は、捕球を見ると慌てて帰塁しますが、この帰塁の際に2塁を踏み忘れてしまいました。
これを見逃さなかった中日は、アピールプレイで見事にアウトを取り、ゲームセットとなっています。
1塁ランナー重信の走塁をカバーする、2塁ランナー陽の走塁にも注目です。
- 重信が帰塁する時間をつくるため、わざとオーバーランの素振り
- 踏み忘れの重信の足跡を消す動作
巨人は敗れたものの、陽の走塁技術・野球IQの高さが伺えるシーンでした。
ホームランを打った打者が本塁を踏み忘れた事例
2017年6月9日、オリックス・マレーロの本塁打は記憶に新しいのではないでしょうか。
来日初ホームランを打ったかと思われたものの、まさかの本塁踏み忘れにより、記録は3塁打となっています。
ホームランを打った打者が一塁を踏み忘れた事例
1958年9月19日、ミスターこと長嶋茂雄のルーキー時代の出来事です。
見事に柵越えを放った長嶋でしたが、この際に1塁を踏み忘れ。
一塁踏み忘れをアピールされ、ホームランは取り消しとなり、さらに1塁の踏み忘れですので記録はヒットですらなく「ピッチャーゴロ」となりました。
1塁踏み忘れの幻のホームランはこれが初めての事例であり、この時に便宜的に記録が「ピッチャーゴロ」となったことで、以降、1塁踏み忘れは「ピッチャーゴロ」とする、とされています。
ホームランの際に走者が三塁を踏み忘れた事例
2006年6月11日、巨人・李承燁のホームランは、ランナーの踏み忘れによりホームランが取り消しとなっています。
李はライト柵越えの打球を放ちますが、1塁走者の小関が3塁を踏み忘れたとして、アピールアウトとなります。
2アウトでの打席だったため、記録はシングルヒット、打点なしとなりました。
小関は3塁の踏み忘れであるため、1塁から2塁への進塁分、シングルヒットが李の記録となりました。
これは2アウトの状態だったため、小関がアウトとなると李のそれ以上の進塁が認められないためで、仮に1アウトやノーアウトの状態であれば、李の記録はソロホームランとなっていました。(李が踏み忘れた訳ではないので、ホームランは有効)
アウトカウントによって記録は変わる、ということですね。
なお、これは誤審である(小関は3塁を踏んでいた)と巨人は主張しており、巨人は抗議文を提出しています。
アピールプレイまとめ
- アピールプレイの対象
- アピールプレイの方法、タイミング
- アピールプレイの事例
等をご覧いただけたことで、複雑なルールをかなりご理解いただけたと思います。
かなり難しいルールですので、何度も読み返していただき、理解を深めていただければ幸いです。
当サイトでは、このような野球に関するルールを多数扱っています。
以下の記事では、中上級者向けの野球のルールを解説しています。
17問の野球のルールクイズもついてますので、野球の知識に自信のある方はぜひ試してみてくださいね。