当記事では、野球における敗戦処理投手について解説します。
言葉通り「負け試合に投げる投手」なのですが、ちょっと酷いネーミングですよね。
実はこの敗戦処理、プロ野球において重要な役割を果たしています。
しっかり理解すると奥深い世界ですので、当記事をご覧いただき、敗戦処理投手の見方が変われば幸いです。
筆者のプロフィール
野球観戦歴20年超の野球オタクで、元球場職員の経歴を持ちます。
愛読書は公認野球規則で、野球のルール解説も得意としています。
敗戦処理とは?
敗戦処理とは、大差がつき敗色濃厚な試合で登板することを指します。
メジャーリーグでは「モップアップマン(mop up man)」とも呼ばれます。
※清掃員(後始末)が由来と言われています。
「先発」や「守護神」などと比べると地味な役割ですが、軽視できない重要なポジションです。
プロ野球はたとえ何点差がついてもコールドゲームにはなりません。
敗戦処理投手がしっかりと役割をこなし、試合を完了させる必要があるのです。
まずは敗戦処理投手に求められる役割について、解説します。
敗戦処理に求められる役割
敗戦処理投手に求められる役割は大きく以下の2点が挙げられます。
- 主力選手の温存
- テンポのいい試合進行(すっきり試合を終わらせる)
順番に解説します。
主力選手の温存
敗戦処理投手の最大のミッションは主力選手の温存です。
プロ野球は毎日のように試合があります。
リリーフ投手は肩や肘の負担を考えると、毎日登板させるわけにはいきません。
現代では3連投(3日連続)すると「投げすぎ」と言われる傾向にありますね。
そこで、敗色濃厚な試合では守護神やセットアッパーといった勝ちゲームで投げる投手を休ませることが大切なのです。
特に先発投手が早々に降板した試合では、敗戦処理投手は出来るだけ長いイニングを投げて、他の投手を休ませることが求められます。
テンポのいい試合進行
敗戦処理とはいえ、何点も失点を重ねて良いわけではありません。
特に四死球での自滅はNGです。
守ってる野手も嫌になっちゃいますからね・・
野手の疲労を軽減するという意味でも、テンポよくアウトを取ることは非常に重要です。
140試合以上を戦うプロ野球では切り替えも重要です。
うまく切り替えるためにも、敗戦処理投手は翌日につながるテンポの良い投球が求められます。
雑な言い方をすると、「負け試合はさっさと終わらせよう」というわけですね。
敗戦処理はどんな投手が務める?
では、敗戦処理はどのような投手が務めるのでしょうか。
チームや監督の方針によっても異なりますが、以下のような投手が登板することが多いです。
- チームの主力を狙う若手のテスト登板
- 怪我明けや不調選手の調整登板
- 便利屋のロングリリーフ要員
「敗戦処理」という明確なポジションが与えられるケースは稀です。
以下、順番に解説します。
チームの主力を狙う若手のテスト登板
セットアッパーや守護神、先発投手など、チームの主力を目指す若手の経験として登板するケースがあります。
二軍から昇格したばかりの選手に接戦での登板は酷なので、まずは敗戦処理で経験を積むというわけですね。
敗戦処理も立派な一軍経験です
敗戦処理はやや緊張感に欠けるものの、貴重な実戦練習の場として活用されています。
怪我明けや不調選手の調整登板
「若手の経験の場」に近い観点ですが、調整登板として使われる場合もあります。
多少の失点は許容できる、大量ビハインドの場面で、実践感覚を取り戻す目的です。
また、登板間隔が空いているリリーフが1イニングだけ調整登板する場合もあります
【便利屋】ロングリリーフ要員
若手や不調選手など、特に登板させたい投手がいない場合、ロングリリーフ要員に声がかかるケースが多いです。
先発もリリーフもできるような、ブルペンの便利屋です。
どのチームも何人かこのような役割の選手がいます
彼らの役割は決して敗戦処理だけではなく、大量リード時のロングリリーフ、先発ローテーションの谷間での先発登板など、様々な役割を果たします。
野手が敗戦処理で登板した事例
ロングリリーフ要員も含め、ブルペンの投手陣の疲労が蓄積している場合、野手が敗戦処理で登板するケースもあります。
延長戦やダブルヘッダー(1日2試合)が存在するメジャーリーグでは、珍しくありません。
野手が敗戦処理で登板した主な事例
- イチロー(2015年10月4日マーリンズ対フィリーズ)
- 青木宣親(2017年6月30日アストロズ対ヤンキース)
- 五十嵐章人(2000年6月3日オリックス対近鉄)
- 増田大輝(2020年8月6日阪神対巨人)
- 北村拓己(2023年9月2日DeNA対巨人)
日本プロ野球においては、野手登板は決して多くはありません。
特に2020年の増田の登板は珍しい事象に喜ぶファンと、「応援しているファンを馬鹿にしている」と批判するファンとで賛否が分かれました。
※増田は阪神11点リードの8回裏1アウトから登板、打者3人、2/3回四球1無失点
敗戦処理が好投すると、大逆転劇が生まれることも
敗戦処理=そのまま敗戦、というのが通常の流れです。
ただ、敗戦処理投手が好投すると、極まれに劇的な大逆転劇を見ることが出来ます。
これがあるから、野球は目が離せない・・!
特徴的な事例をひとつご紹介します。
以下のスコアボード(1997年8月24日のロッテVS近鉄)をご覧ください。
2回までに10失点と最悪の出だしから見事な逆転サヨナラ勝利を果たした試合です。
この試合は近鉄のいてまえ打線の恐ろしさを見せつけた試合ですが、ここで注目すべきは3~5回を無失点に抑えた投手の柴田佳主也です。
本来なら敗戦処理だったはずですが、しっかり仕事をしたことでチームの勝利に繋がったわけですね。
敗戦処理のモチベーション問題
敗戦処理投手はたとえ好投しても、成績に表れにくいという問題があります。
投手の指標である勝利・ホールド・セーブのいずれもつく可能性が低いのです。
こういった背景から、敗戦処理投手の起用法は監督によって考え方が異なります。
元ロッテ・バレンタイン監督の起用法が特に有名です。
「敗戦処理を若手にやらせても意味がない」という持論から、敗戦処理をベテランの小宮山に任せていました。
一方で、敗戦処理から結果を残し、セットアッパーや守護神とステップアップする若手が多いのも事実です(2021年の楽天・安樂は良い例ですね)
敗戦処理の監督の起用法に注目してみると、さらに野球を見るのが楽しくなるかもしれません。
敗戦処理 まとめ
敗戦処理の役割・特徴についてご理解いただけたでしょうか。
派手な役割ではありませんが、仲間の疲労回復など、翌日の試合に繋げる重要な役割を果たしています。
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